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No.1: 冬こそ落葉樹の観察に出かけよう!

2009年1月

 冬の落葉樹なんて、葉っぱも花もないつまらない存在だと思っていませんか。もしそうだとしたらもったいない!ぜひ樹木に近づいて、枝先に付いている冬芽をじっと見つめてみてください。冬芽は樹木が冬の寒さや乾燥に耐えている姿。厳しい冬を越すために、樹木はいろいろな工夫をしています。

 冬、人間は寒さから身を守るために暖かい洋服を着ます。また、乾燥しやすい季節でもあり、手あれなどを防ぐためにクリームを塗る人も多いでしょう。実は樹木の中にも、人間とよく似たことをしているものがいます。例えば、コブシやタムシバはまるで毛皮のコートのような、ふさふさと毛の生えた覆いを冬芽にしていますし、トチノキはべとべとした樹脂を冬芽にくっつけて、芽の隙間をぴったりとうめています。

コブシの冬芽
<コブシ>
トチノキの冬芽
<トチノキ>

 樹木の中には、長い進化の過程で、葉っぱの一部を硬い鱗(うろこ)のような構造に変化させ、それを何枚も重ねてよろいのように新芽を守っているものがいます。芽の鱗のような構造の一枚一枚を芽鱗(がりん)といいます。樹木の種類によって芽鱗の数は様々で、分厚い芽鱗を一枚だけもつ樹木があるかと思えば、薄めの芽鱗を20枚以上も重ねている樹木もあります。

 その一方で、冬芽に芽鱗を持たない樹木もあります。芽鱗のない冬芽を裸芽(らが)といいます。例えば裸芽をもつオオカメノキは、7月後半ごろから新たな葉を開かなくなり、その時点ですでに枝から顔を出しかけている葉は、ぐっと縮めたままの硬い状態にしておいて冬を越します。一見寒そうに見えますが、良く見ると細かい毛がたくさん生えていて、大切な芽をしっかりと守っています。

イヌコリヤナギの冬芽
<イヌコリヤナギ>
芽鱗が1枚
ミズナラの冬芽
<ミズナラ>
芽鱗が20枚以上
オオカメノキの冬芽
<オオカメノキ>
裸芽

 もし冬芽を十分に目に焼きつけたら、春先の芽吹きも観察してみてください。硬く閉じていた芽鱗や裸芽がほころびだし、その内側からみずみずしい黄緑色の葉があふれ出してくるさまに、今までより一層強く、生命の美しさを感じられることでしょう!

 ところで、冬の落葉樹観察の楽しみは冬芽だけではありません。今年伸びたばかりの枝をよく見てみると、葉っぱの落ちた跡が見つかります。それが葉痕(ようこん)です。葉痕には葉っぱと枝の間で水や養分のやり取りをしていた跡である維管束痕(いかんそくこん)があります。その維管束痕がまるで顔のように見える樹木があるのです。

 例えば私たちに身近なアジサイの葉痕は子供の顔。キハダはコアラにそっくり。リスが大好きなオニグルミやその仲間のサワグルミの葉痕を見ると、こちらもついつられて笑顔になってしまいます。すべての樹木の葉痕が顔に見えるわけではありませんが、だからこそ顔を発見したときの喜びもひとしお。皆さんにはどんな顔に見えますか?

アジサイの葉痕
<アジサイ>
帽子をかぶっている子供?
サワグルミの葉痕
<サワグルミ>
幸せそう…

 冬芽も葉痕も、葉っぱの少ない冬こそじっくりと観察できるチャンスです。私達も樹木と同じように寒さと乾燥対策をしっかりとして、近くの公園や林へ出かけましょう。冬をたくましく生きている樹木から、きっとたくさんのメッセージをもらえるはずです。

文・写真:山中史江(技術職員)


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