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昆虫学会第71回大会にて公開シンポジウム「形態学とは何か 〜ケーススタディ:その「主張」と「実際」〜」を開催 2011年9月17-19日 2011年9月17-19日に信州大学松本キャンパスで開催された昆虫学会第71回大会にて、町田龍一郎教授の企画した公開シンポジウム「形態学とは何か 〜ケーススタディ:その「主張」と「実際」〜」が開催されました。 最近は、保全生態学、外来種問題、生物多様性などをキーワードにしたシンポジウムが目立ちますが、以前のような「純科学的」なテーマを扱うシンポジウムは少なくなりました。大会・学会を活性化する観点からもこうした「純科学的」なテーマを扱うシンポジウムがもっとあってしかるべきということで、「形態学」そして「全体論的思考」の重要性を再確認するためのシンポジウムが企画されました。 企画者である町田教授は「全体論的論考の重要性−六脚類における胚と胚膜の機能分化の進化的変遷−」という演題で、グラウンドプランの進化的変遷を意識した上で形態の本質的な理解を行えば、六脚類における新たな胚膜の進化が見え、ベーサルクレードの再構築が可能になる、という内容の講演を行いました。形態学を志してから 40 年近くになる町田教授が語る形態学、そして全体論的論考の重要性は、非常に重みのあるものでした。 シンポジウムでは、町田教授の他3名の方が基調講演を行いました。横須賀市自然・人文博の内舩俊樹博士は、ガロアムシを材料に、昆虫の腹板が付属肢亜基節に由来することを発生学的に証明し、形態形成を丹念に追い、形態への理解を突き詰めることがいかに重要であるかを語られました。北海道大学の吉澤和徳准教授は、つい先日Natureに掲載された「ツノゼミの角は前胸の翅に由来する」という説をもとに、形態の不十分な理解・誤認識が如何に重大な解釈ミスを招くかについて指摘し、形態を理解することの重要性を語られました。また、ヨコバイ類の翅基部構造について、機能形態学的な面からわかること、形態学の魅力・奥深さなどについて語られました。そして、農業生物資源研究所の畠山正統は、膜翅目幼虫の腹脚をテーマに、形態マーカーのような分子生物学手法に頼り形態を理解しようとすること危うさ、形態に対する基礎的な理解の重要性、そして形態学と分子生物学が両輪として機能することの重要性について語られました。 比較形態学的な議論は古くから現在に至るまで続いてきていますが、なかなかコンセンサスに達しないこともあり、水掛け論呼ばわりされたり、「古い学問」というレッテルを貼られたりすることもありました。100 年以上経過しても色褪せない素晴らしい形態学的な研究が数多く存在する一方で、皮相的な理解や比較をもとにした多くの研究が、このような形態学への誤った認識を作り上げるのに一役買ってしまったことも事実でしょう。 今回の形態学シンポジウムは、そうしたある種の誤解を払拭し、形態学本来の「力」「ポテンシャル」といったものを再認識してもらうことが大きな目的でした。本物の形態学的研究というものは、時代を越えて我々に大きな示唆を残してくれる、いわば一種の科学的遺産であり、周囲の手法がどれだけ進歩しようと揺るがない絶対的な価値をもつものだからです。幅広い年齢層の方で埋め尽くされた会場では、これからの日本の科学研究を担うであろう若手の方も数多く見られました。そうした方々の形態学に対する意識が少しでも良い方に変わってくれていれば、今回のシンポジムは大成功であったといえるでしょう。
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